質問主意書
令和六年十一月四日現在、選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度。以下、「別氏」は、「別姓」とする)について、導入を求める意見が見られる。しかし、我が国では、家族単位を基盤とする戸籍制度が長く根付いており、夫婦が同じ姓を持つことで家族の一体感が保たれ、親族関係を明確にする役割を果たしている。こうした日本に根付いた家族観は、他国とは異なる日本の特徴であり、単に「選択の自由」の問題として扱うべきではない。
民法第七百五十条及び戸籍法第七十四条第一号では、夫婦のいずれかの姓を選択することが認められており、姓の選択に関して強制はなく、現行法は柔軟な選択を許容している。この点については、令和三年六月二十三日に最高裁判所大法廷において、憲法上の問題はないと判断されており、姓の選択が差別に当たらないとされている。
一方、国際連合の女子差別撤廃委員会は、日本に対し、結婚後も女性が旧姓を維持できるよう法改正を勧告している。しかし、この勧告は日本の伝統的な家族観や国民の意識を十分に考慮しているとは言い難い。
現在、我が国では、姓の変更による不便の対応として、旧姓の通称使用や併記が多くの分野で認められている。国家資格や公的身分証などでも旧姓の通称使用や併記が可能であり、夫婦同姓による不便は事実上解消されつつあるといえる。必要があれば、これらの範囲をさらに広げることで対応は可能である。
また、国民の意識調査においても、夫婦同姓を支持する声が多い。令和三年に内閣府が実施した家族の法制に関する世論調査では、夫婦同姓を「維持したほうがよい」との回答が二十七%、夫婦同姓を維持しつつ「旧姓の通称使用の法制度を設けた方がよい」が四十二%であり、合計六十九%が現行制度の維持に賛同している。また、共同通信社が令和六年に実施した主要企業に対するアンケートでは、選択的夫婦別姓の導入を「早期に実現すべき」とする企業が十七%、「将来的には実現するべき」が四%に留まり、「その他・無回答」が六十七%を占めている。このことからも、急速な制度変更は必ずしも社会全体や企業の意識に即したものではないと考えられる。
さらに、夫婦別姓制度が導入されると、夫婦や親子間で異なる姓を使用することで家族の一体感が損なわれる懸念がある。特に、第三者から家族関係が把握しにくくなることは、家庭や社会の安定にとってマイナスの要因となり得る。また、新生児の姓や終末期の墓の記名をめぐり、夫婦や実家間での議論が増える可能性も考えられる。こうしたことから、選択的夫婦別姓制度は家族間や世代間の法的争いや一体感の喪失につながる懸念がある。
さらに、戸籍制度の改変による行政コストの増加や、親族関係や日本国籍の公証に不可欠な戸籍制度の在り方についても、慎重な検討が必要である。制度変更が社会全体に新たな混乱や負担をもたらす可能性がある。
以下これらの点を踏まえて質問する。
北野裕子(参政党)
法務省のウェブサイトには「選択的夫婦別氏制度」について、「結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の氏を称することを認める制度」と説明され、現行制度についても「男性の氏を選び、女性が改姓する例が圧倒的多数である」旨の説明がされている。しかし、同ページでは、女性の社会進出に伴う改姓の不便・不利益等が導入の背景として強調され、日本の歴史的・文化的背景や、現行制度が持つ家族の一体感維持の意義については記載がない。法務省が、選択的夫婦別姓制度の導入は、婚姻制度や家族の在り方と関係する重要な問題であり、国民の理解のもとに進められるべきとするのであれば、女性の社会進出に伴う不便のみを取り上げるのではなく、現行制度の意義や歴史的・文化的背景、また導入に伴う社会的影響やデメリットについても情報提供を行う必要があると考える。その記載がない理由が特段あれば説明を求める。また、記載内容の修正が必要であると考えるが、どうか。
政府
御指摘の「現行制度の意義や歴史的・文化的背景」及び「導入に伴う社会的影響やデメリット」の意味するところが必ずしも明らかではないが、選択的夫婦別氏制度や現行の夫婦同氏制度については、御指摘のウェブサイトにおいて、「選択的夫婦別氏制度の導入に対する賛成意見や反対意見は、どのようなことを理由とするものでしょうか。」、「夫婦が必ず同じ氏を名乗ることになったのは、いつからですか。」、「平成二十七年の最高裁の大法廷判決では、夫婦同氏制度の意義や選択的夫婦別氏制度について、どのような判断が示されましたか。」、「別氏夫婦を認めたときの子どもの氏は、どうなるのですか。」、「別氏夫婦の戸籍は、どうなるのですか。」等の項目を設けて情報提供を行っているところであり、「記載内容の修正が必要である」とは考えていない。
北野裕子(参政党)
令和六年十月三十日、林芳正官房長官は会見において、皇位継承を男系男子に限る皇室典範について、国連の女子差別撤廃委員会から改正の勧告があったことに対し、抗議を行った。一方、同委員会からの選択的夫婦別氏制度導入に関する勧告については抗議や反論が行われていないが、政府として、夫婦同姓制度(民法第七百五十条)が女子差別撤廃条約第一条に照らし、広く解釈を検討する余地があると考えているのか。仮に現行の夫婦同姓制度が女性差別に該当しないとの見解である場合、同委員会の勧告に対して抗議や反論を行わなかった理由があれば示されたい。
政府
お尋ねの「広く解釈を検討する余地がある」及び「抗議や反論を行わなかった理由」の意味するところが必ずしも明らかではないが、政府としては、民法(明治二十九年法律第八十九号)第七百五十条は、夫又は妻の氏のいずれを称するかを夫婦の選択に委ねており、男女の平等の理念に反するものではないことから、御指摘の条約に違反するものではないと考えており、選択的夫婦別氏制度も含め、夫婦の氏に関する具体的な制度の在り方については、国民各層の意見や国会における議論の動向を注視しながら、司法の判断も踏まえ、更なる検討を進めていくこととしているところであって、御指摘の女子差別撤廃委員会においても、このような我が国の立場に理解が得られるよう説明に努めたところである。
北野裕子(参政党)
政府は、旧姓の通称使用や併記の現状をどのように評価しているか。さらに拡大する必要がある分野があると考えているか。また、現状での拡大可能な分野についての把握は既に済んでいるのか、確認したい。
政府
政府においては、「第五次男女共同参画基本計画」(令和二年十二月二十五日閣議決定)に沿って、選択的夫婦別氏制度も含め、夫婦の氏に関する具体的な制度の在り方に関し、国民各層の意見や国会における議論の動向を注視しながら、司法の判断も踏まえ、更なる検討を進めていくとともに、婚姻に伴って氏を改める者が不便さや不利益を感じることのないよう、旧姓の通称使用の拡大に取り組むこととしているところ、現在までに、全ての国家資格等を証する書面、住民票、個人番号カード及び旅券に記載される氏、不動産登記における所有権の登記名義人の登記すべき氏等において旧姓の通称使用や併記が可能とされるなど、旧姓の通称使用や併記が拡大しているものと承知している。なお、御指摘の「拡大する必要がある分野」及び「拡大可能な分野」の意味するところが必ずしも明らかではないが、政府としては、引き続き旧姓の通称使用や併記の拡大に取り組んでまいりたい。
北野裕子(参政党)
旧姓の使用や併記が可能であることが十分に周知されていないと考えられる。政府は、現在どのような周知方法を実施しているのか。また、今後、これらの周知を徹底するためにどのような方策を検討しているのか。
政府
お尋ねの「周知方法」については、内閣府ウェブサイト等において、必要な情報提供を行っているところであるが、政府としては、引き続き幅広い周知に努めてまいりたい。