質問主意書
歴史認識に関わる我が国の政策に関する再質問主意書(第二百十三回国会質問第五二号)に対して答弁書(内閣参質二一三第五二号。以下「本件答弁書」という。)が送付された。
現代の国際社会では、特に歴史認識を巡る情報戦が重要なフロントラインとなっている。誤った情報が一度受け入れられると、その誤解が定着する恐れがあるため、迅速かつ継続的な正確な情報提供が重要である。この背景のもと、我々は誤情報に対する積極的な情報発信と迅速な反論を実施する必要がある。
いわゆる「南京事件」に関する論争は特に顕著である。戦後、南京での出来事は、しばしば犠牲者数が誇張され、広く「虐殺」が発生したと主張されてきたが、政府は、確固たる証拠が提示されていないにもかかわらず、受動的な姿勢を取り続けてきた。
特に二〇一五年に中国が提出した「南京大虐殺」関連文書が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の記憶遺産に登録申請された際、日本政府は、日中間での認識の相違を理由に、中国側の一方的な主張に基づく登録への反対を表明し、申請の撤回を中国政府に要請し、登録決定後は、日本政府は、「日中間で見解の相違がある…にもかかわらず、中国の一方的な主張に基づき申請されたものであり、…完全性や真正性に問題があることは明らか」で、「記憶遺産として登録されたことは、中立・公平であるべき国際機関として問題であり、極めて遺憾」だとして、ユネスコ事業が政治利用されることがないよう制度改革を求めていくとした。
しかしながら、国際社会では「南京大虐殺」のイメージが広まり、国際機関による認定と捉えられかねない状況となっている。この経緯は、政府が能動的かつ積極的な対応を怠った結果ではないだろうか。
また、日本政府は、南京事件における非戦闘員の殺害や略奪行為は否定できないが、具体的な犠牲者数については様々な説があり、明確な数を確定することは困難としている。このような曖昧な立場は、政府が事件の発生を認めつつも、犠牲者数については不明とする印象を与えている。本件答弁書において「戦史叢書 支那事変陸軍作戦〈一〉―昭和十三年一月まで―」(以下「本件戦史叢書」という。)から引用された部分は、前半では、軍紀風紀の維持に努めたものの、不正行為が発生し、法に則って処分が行われたこと、後半は、少数の住民の殺傷があったところ、軍が意図的に住民を殺害したとの文脈でなく、住民が巻き込まれたり、敗残兵が住民に変装して潜伏したという文脈で語られている。
このように、当時の南京で「数十万人が虐殺された」という一部の主張の規模とは異なる内容である。「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(Convention on the Prevention and Punishment of the Crime of Genocide、一九四八年)」では、集団殺害罪は、国民的、人種的、民族的または宗教的集団を破壊する意図を持って行われる行為と定義されており、この文脈では全く当てはまらない。反対に、本件戦史叢書における「南京事件」の関連する記述によると、事件に関する報告は終戦後になされ、関連する判決で挙げられた非戦闘員や市民の犠牲者数(非戦闘員約一万二千人、避難していた市民約五万七千人など)について、「その証拠を些細に検討すると、これらの数字は全く信じられない」と述べている。また、日本軍が発表した中国軍の遺棄屍体数(約八万~九万)に関しても、「日本軍の戦果発表が過大であるのは常例であったことを思えば、この数字も疑わしい」とし、「これが事件として取り上げられたのは、若干の事実があったからであり、これが誤解、曲解され、さらに誇大宣伝されたためであろう」と指摘している。さらに、諸資料を総合的かつ些細に分析した結果、「南京付近の死体は戦闘行為の結果によるものが大部であり、これをもって計画的組織的な「虐殺」とは言いがたい」と結論づけている。
さらに、戦争史の諸研究において、「南京事件」について些細に検証しており、大規模な虐殺があったとする証拠は脆弱で、「大虐殺」が実際に発生したと断言するのは疑問が残るという結果が示されている。一方で、政府は、「非戦闘員の殺害又は略奪行為があったことは否定できない」としつつも、具体的な数に関しては「様々な議論があるため断定することは困難」と述べている。
本件戦史叢書に基づく記述としては、仮にこれが誤りではないとしても、部分的であり、状況の全貌を捉えていないものと思える。歴史認識に関する国際的な情報戦では、迅速かつ正確な情報提供が求められている。特に「南京事件」については、受動的な姿勢から脱却し、不明点については客観的な研究を進めながら、歴史的事実に基づく正確な見解を示すことが重要である。
以上を踏まえ質問する。
神谷宗幣(参政党)
本件戦史叢書に記されている「南京付近の死体は戦闘行為の結果によるものが大部であり、これをもって計画的組織的な「虐殺」とは言いがたい」との記述について、政府はこの見解をどのように評価しているか。また、この見解が政府の公式対応や答弁にどのように反映されているのかを具体的に示されたい。
政府
一から三までについて
御指摘の「政府の公式対応や答弁」及び「結論」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、御指摘の「戦史叢書支那事変陸軍作戦〈一〉―昭和十三年一月まで―」(以下「叢書」という。)については、防衛庁防衛研修所戦史室(当時)が編さんしたものであるところ、お尋ねの「どのように評価しているか」、「どのように反映されているのか」、「どのように評価するか」及び「どのような立場をとるか」については、その趣旨が明らかではないため、お答えすることは困難である。また、お尋ねの「「犠牲者数に関してはさまざまな議論があり、断定することは困難である」との政府見解に至った根拠と、その根拠資料」については、先の答弁書(令和六年三月八日内閣参質二一三第五二号)三の1についてでお答えしたとおりである。
神谷宗幣(参政党)
政府は、「非戦闘員の殺害又は略奪行為があったことは否定できない」としつつも、本件戦史叢書に記述された「「虐殺」とは言いがたい」との結論には言及していない。政府は、この結論部分について、どのように評価するか。
政府
一から三までについて
御指摘の「政府の公式対応や答弁」及び「結論」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、御指摘の「戦史叢書支那事変陸軍作戦〈一〉―昭和十三年一月まで―」(以下「叢書」という。)については、防衛庁防衛研修所戦史室(当時)が編さんしたものであるところ、お尋ねの「どのように評価しているか」、「どのように反映されているのか」、「どのように評価するか」及び「どのような立場をとるか」については、その趣旨が明らかではないため、お答えすることは困難である。また、お尋ねの「「犠牲者数に関してはさまざまな議論があり、断定することは困難である」との政府見解に至った根拠と、その根拠資料」については、先の答弁書(令和六年三月八日内閣参質二一三第五二号)三の1についてでお答えしたとおりである。
神谷宗幣(参政党)
本件戦史叢書では、犠牲者数に関する疑義が示され、「その証拠を些細に検討すると、これらの数字は全く信じられない」と記述されている。この記述について、政府はどのような立場をとるか。また、「犠牲者数に関してはさまざまな議論があり、断定することは困難である」との政府見解に至った根拠と、その根拠資料は何か。
政府
一から三までについて
御指摘の「政府の公式対応や答弁」及び「結論」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、御指摘の「戦史叢書支那事変陸軍作戦〈一〉―昭和十三年一月まで―」(以下「叢書」という。)については、防衛庁防衛研修所戦史室(当時)が編さんしたものであるところ、お尋ねの「どのように評価しているか」、「どのように反映されているのか」、「どのように評価するか」及び「どのような立場をとるか」については、その趣旨が明らかではないため、お答えすることは困難である。また、お尋ねの「「犠牲者数に関してはさまざまな議論があり、断定することは困難である」との政府見解に至った根拠と、その根拠資料」については、先の答弁書(令和六年三月八日内閣参質二一三第五二号)三の1についてでお答えしたとおりである。
神谷宗幣(参政党)
二〇二三年四月三日の参議院決算委員会で、当時の林外務大臣は、「外務省のホームページの記載…は関係者の証言や事件に関する種々の資料から総合的に判断したもの」と答弁したが、本件戦史叢書以外の「関係者の証言や事件に関する種々の資料」とは何か、具体的に示されたい。
政府
叢書については、一から三までについてで述べたとおり、政府機関により作成されたものであることから、御指摘の「答弁」において御指摘の「関係者の証言や事件に関する種々の資料」の例として示したものであるが、いわゆる「南京事件」における非戦闘員の殺害又は略奪行為の具体的な数等に関して様々な議論がある中においては、叢書以外の資料等を具体的に示すことにより、こうした議論に関する政府の見解について誤解を与えるおそれがあることから、お尋ねにお答えすることは差し控えたい。
私が提出した「歴史認識に関わる我が国の政策に関する質問主意書」(第二百十三回国会質問第四号)に対して、答弁書(内閣参質二一三第四号。以下「本件答弁書」という。)が送付された。
本件答弁書をもとに、以下質問する。
神谷宗幣(参政党)
一 対外発信の効果に関して
本件答弁書によれば、「政府としては、国際社会において、客観的事実に基づく正しい歴史認識が形成され、我が国の基本的立場や取組に対して正当な評価を受けるべく、積極的かつ戦略的に対外発信に取り組んできて」おり、「このような取組の効果については、その対象となった者の反応、世論調査の結果等を踏まえて総合的に検証している」とのことである。
1 これら政府が行ってきた積極的かつ戦略的な対外発信の結果、これらの歴史問題に対する我が国の対外発信に対する国際社会の反応や、国際機関や他国政府からの具体的なフィードバックはどのようなものであったか。また、それに対する政府としての評価を併せて示されたい。
2 政府が今後取り組む予定の対策や、既存の取組をどのように改善していく予定かについて、具体的な計画があるか、示されたい。
3 これらの歴史問題に関する我が国の対外発信の効果を測るために行われた国内外の世論調査の結果に基づき、公衆の意識や態度にどのような変化が見られたかを示されたい。
政府
御指摘の「公衆の意識や態度」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、我が国として、国際社会において、客観的事実に基づく正しい歴史認識が形成され、我が国の基本的立場や取組に対して正当な評価を受けるべく、先の答弁書(令和六年二月六日内閣参質二一三第四号。以下「前回答弁書」という。)一の2及び3についてで述べた取組を行い、これらの取組の対象となった者の反応や外国における調査の結果について、外務省において種々の検証を行ってきているところ、我が国の平和国家としての歩みについては国際的に高い評価を得ていると認識しているが、お尋ねの「国際機関や他国政府からの具体的なフィードバック」を含め、当該検証の詳細及びお尋ねの「具体的な計画」については、相手方との関係もあり、また、これらを明らかにすることにより、戦略的に取り組んでいる対外発信の効果が減ずるおそれがあることを含め、同省の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、お答えすることは差し控えたい。
神谷宗幣(参政党)
二 対外発信の手法に関して
本件答弁書は、対外発信の方法として、大臣を含む政府関係者による発信、在外公館における発信、広報資料やオンラインの活用などを挙げている。これらは、いずれも政府からの直接の発信である。現代の情報戦や認知戦では、政府による公式の発信だけでなく、内外の有識者の発信、フェイクニュースまで、より総合的なアプローチがとられている。政府の情報発信に対する取組は評価するが、政府の直接の発信だけに限らず、政府外の組織や有識者を含む国全体の包括的な取組を政府が主導し、そのための環境整備を進める必要があるのではないか。加えて、客観的事実に基づく正確な歴史認識の発信に努める海外の有識者や団体などとの連携も重要な戦略であると考えられる。
1 政府は、政府外の組織や有識者を含むより幅広い層での情報発信の取組を主導し、そのための環境整備を進める計画はあるか。
2 客観的事実に基づく正確な歴史認識の発信に努める海外の有識者や団体との連携を深めることを検討しているか。
3 政府の対外発信の効果を最大化するためには、どのような新たなアプローチや技術が必要だと考えるか。また、これらの取組を実現するために政府が直面する主な課題は何か。
政府
二及び三の3について
御指摘の「客観的事実に基づく正確な歴史認識の発信に努める海外の有識者や団体」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、政府としては、御指摘のように「対外発信の効果を最大化するため」及び国際社会において歴史認識を始めとした幅広い分野に関する我が国の立場や考え方への理解を得るために、御指摘のように「海外の有識者や団体」との連携を強化すること等が重要であると認識しており、引き続き、こうした対外発信の取組について、御指摘の「誤解や誤情報」への対応を含め、課題や手法を不断に検討を行いつつ、進めていく考えである。これ以上の詳細については、相手方との関係もあり、また、これを明らかにすることにより、戦略的に取り組んでいる対外発信の効果が減ずるおそれがあることを含め、外務省の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、お答えすることは差し控えたい。
神谷宗幣(参政党)
いわゆる「南京事件」に関して
1 本件答弁書によれば、政府が「昭和十二年の旧日本軍による南京入城後、非戦闘員の殺害又は略奪行為があったことは否定できないと考えている」としているのは、「戦史叢書 支那事変陸軍作戦」及び公になっていた文献等から総合的に判断したとのことである。また、令和五年四月三日の参議院決算委員会で林外務大臣(当時)は、「外務省が作成したものは確認できておりません」、政府全体では「「戦史叢書 支那事変陸軍作戦」第一巻に該当の記述がある」旨答弁している。しかし、「戦史叢書 支那事変陸軍作戦」には、日本軍が一般住民を意図的に殺害したという記述は見当たらないのではないか。逆に、次のように南京攻略作戦において軍紀風紀を維持徹底し不法行為を防ぐための記述が見られる。
【以下抜粋】
「七 南京城ノ攻略及入城ニ関スル注意事項
(一)皇軍カ外国ノ首都ニ入城スルハ有史以来ノ盛事ニシテ永ク竹畠ニ垂ルヘキ事蹟タルト世界ノ斉シク注目シアル大事件ナルニ鑑ミ正々堂々将来ノ模範タルヘキ心組ヲ以テ各部隊ノ乱入、友軍ノ狙撃、不法行為等絶対ニ無カラシムルヲ要ス
(二)部隊ノ軍紀風紀ヲ特ニ厳粛ニシ支那軍民ヲシテ皇軍ノ威武ニ敬仰帰服セシメ苟モ名誉ヲ毀損スルカ如キ行為ノ絶無ヲ期スルヲ要ス
(五)掠奪行為ヲナシ又不注意ト雖 火ヲ失スルモノハ厳罰ニ処ス 軍隊ト同時ニ多数ノ憲兵、補助憲兵ヲ入城セシメ不法行為ヲ摘発セシム」
政府が南京事件に関する見解を公表するにあたって、どのような歴史的、国際的な文脈が考慮されたか。また、「戦史叢書 支那事変陸軍作戦」及びその他の文献から、政府が南京での非戦闘員の殺害や略奪行為を否定できないと判断するに至った具体的な分析過程を教示されたい。具体的にどのような歴史的証拠や証言が考慮されたかについても示されたい。
2 政府は、「非戦闘員の殺害又は略奪行為があったことは否定できない」としつつも、具体的な数については「様々な議論があるため断定することは困難」と述べているが、根拠となる文書類がないのであれば、曖昧な表現を避けるべきではないか。
日本政府は、南京事件における被害者数について「様々な議論があるため断定することは困難」としているが、この曖昧さが国内外での誤解や誤情報を招いている可能性について、政府はどのように考えているか。
3 国際社会での誤解や誤情報に対して、日本政府はどのような先手策を講じ、またどのように事実に基づいた情報提供を行っているか。
政府
三の1について
お尋ねの「どのような歴史的、国際的な文脈が考慮されたか」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、いわゆる「南京事件」に関する政府の見解は、前回答弁書一の1についてで述べたとおりであり、御指摘の「戦史叢書 支那事変陸軍作戦」を含め、それまでに公になっていた文献等から総合的に判断したものであるが、例えば、「戦史叢書 支那事変陸軍作戦〈一〉―昭和十三年一月まで―」において、「遺憾ながら同攻略戦において略奪、婦女暴行、放火等の事犯がひん発した。これに対し軍は法に照らし厳重な処分をした。」、「たとえ少数であったとしても無辜の住民が殺傷され、捕虜の処遇に適切を欠いたことは遺憾である。」等の記載があるものと承知している。
三の2について
お尋ねの「具体的な数については「様々な議論があるため断定することは困難」と述べているが、根拠となる文書類がないのであれば、曖昧な表現を避けるべきではないか。」及び「この曖昧さが国内外での誤解や誤情報を招いている可能性」の趣旨が必ずしも明らかではないが、いわゆる「南京事件」に関する政府の見解は、三の1についてで述べた判断に基づくものである。
二及び三の3について
御指摘の「客観的事実に基づく正確な歴史認識の発信に努める海外の有識者や団体」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、政府としては、御指摘のように「対外発信の効果を最大化するため」及び国際社会において歴史認識を始めとした幅広い分野に関する我が国の立場や考え方への理解を得るために、御指摘のように「海外の有識者や団体」との連携を強化すること等が重要であると認識しており、引き続き、こうした対外発信の取組について、御指摘の「誤解や誤情報」への対応を含め、課題や手法を不断に検討を行いつつ、進めていく考えである。これ以上の詳細については、相手方との関係もあり、また、これを明らかにすることにより、戦略的に取り組んでいる対外発信の効果が減ずるおそれがあることを含め、外務省の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、お答えすることは差し控えたい。
第二百十一回国会において、「歴史認識に関わる我が国の政策に関する質問主意書」(第二百十一回国会質問第四六号)(以下「本件質問主意書」という。)に対して、答弁書(内閣参質二一一第四六号)(以下「本件答弁書」という。)の送付があった。
本件答弁書では、本件質問主意書の意味が不明であるとの趣旨を繰り返し、誠実な回答はなされていない。本件質問主意書は、政府による情報の適切な発信に関するものであり、内容が自明であって、意味が理解できないとして回答しないのは、政府の情報発信に対する姿勢に疑問を抱かせるものであった。
政府が答弁の回避をしている間にも、国際社会では日本をターゲットにしたいわゆる「歴史戦」というべきキャンペーンが継続されている。
例えば、韓国では、昨年十二月、いわゆる慰安婦問題に関連し、日本政府に損害賠償を命じる高裁判決が確定した。通常、主権国家は他国の裁判権に服さないとする国際法上の「主権免除」の原則が適用されるが、高裁はこれを認めず、一九六五年の日韓請求権協定で解決済みである本件について、受け入れがたい判決を出している。
また、本年一月、徴用工として動員されたと主張する韓国人の遺族が日本企業に損害賠償を求めた訴訟で、賠償支払いを命じた判決が確定した。旧朝鮮半島出身労働者に関する訴訟で原告側勝訴が確定するのは九件目となった。このように、事実に基づかない主張がますます国際社会に広まるリスクが高まっている。
さらに、今年三月には、日本をホロコーストに関連付ける書籍(Bryan Mark Rigg Ph.D.著「Japan’s Holocaust: History of Imperial Japan’s Mass Murder and Rape During World War II」。以下「本件書籍」という。)が出版される予定である。本件書籍の紹介文によると、一九二七年から一九四五年の間に天皇の命令により少なくとも三千万人が虐殺されたという主張が含まれているようである。しかし、これは歴史的な事実として何ら裏付けがない。
例えば、東京大空襲の犠牲者数は十万人超、広島原爆による死者数は約十四万人で統計的な裏付けがある。ナチスによるユダヤ人の虐殺の犠牲者数は諸説あるものの、多いもので約六百万人とされている。
一方で、中国がしばしば引用する「南京虐殺の三十万人」等をはじめ、「アジアで日本の侵略により三千万人が犠牲になった」とする主張については、これを支持する統計的な資料は見当たらないことが指摘されている。
このように日本の歴史が事実に基づかない主張により歪められ、国際社会で誤解を招く状況が生じている現状に対し、我が国は真剣に対応する必要がある。誤った情報が広まる度に受け身で対応するだけでは不十分である。我が国として、能動的に正しい歴史認識が国際社会で理解されるような取組を進めることが極めて重要である。
かつて村山富市政権時代、いわゆる「村山談話」を発表し、日中、日韓がそれぞれ歴史研究に取り組むことが合意された。この取組の一環として、日本は国内に残された歴史資料の整理収集とデジタルアーカイブ化に取り組み、アジア歴史資料センターとして公開している。一方、中国と韓国は、戦時中の資料のアーカイブ化や公開に関しては、まだ進展が見られていない。また、客観的な歴史的資料に基づかない主張や、根拠の乏しい国内裁判の判決が繰り返されている現状がある。
こうした現状である以上、日本は国を挙げて事実に基づく歴史を国際社会に広める努力がいっそう求められる。産業遺産情報センターや領土・主権展示館などの活動は、この目的において有益であり、さらなる強化が望まれるとともに単なる資料公開にとどまらず、研究の推進と判明した研究成果の積極的な発信が求められる。
また、現代では、目的性が意識された認知戦や情報戦が盛んに行われていることは周知の事実である。科学技術の発達に伴い、AIを使用したフェイク情報の拡散も行われている。
国の歴史を歪め、国内外に分断を持ち込むフェイクの持ち込みに対して、事実をしっかり対峙させる持続的な対応が求められる。この点では、国内外の誤解を招く情報に対する迅速かつ的確な反応及び真実を伝えるための戦略的な情報発信が、国際社会での我が国の立場を強固にする上で不可欠であるといえる。
以上を前提に、以下質問する。
神谷宗幣(参政党)
本件答弁書において、我が国が関係する歴史の認識についての具体的な範囲とその誤った事実認識が国際社会に及ぼす影響に関する質問の意図が不明確であったとの指摘を受けたことから、以下の点について、より明確にし、再質問する。
1 政府は、我が国が関係する歴史の認識のうち、慰安婦問題、旧朝鮮半島出身労働者問題、南京事件などの歴史的事例について、どのような立場をとっているか。これらの事例に関して、現在の政府の公式見解を示されたい。
2 政府は、国際社会におけるこれらの歴史的事例の認識が日本のイメージにどのような影響を及ぼしていると考えているか。特に、誤解や誤った情報が日本の国際的な評価にどのような影響を与える可能性があるかについて、政府の見解を示されたい。
3 政府は、歴史的事実に基づかない主張や情報が我が国の国際的イメージに与える影響に対して、どのような対策を講じているか。特に、歴史的事実と異なる内容を含む公表資料や著作に対して取り組んでいる具体的な施策と、それらが我が国の国際的イメージの改善にどのように寄与しているかについて示されたい。また、事実に基づく歴史認識を積極的に国際社会に発信し、その理解を深めるための取組や今後の展望についても具体的に示されたい。
政府
一の1について
慰安婦問題に関する政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話を継承しているというものであり、また、慰安婦問題及び旧朝鮮半島出身労働者問題を含め、御指摘の「判決」を始めとした大韓民国との間における請求権の問題については、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和四十年条約第二十七号)第二条1において、「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が・・・完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認」している。
いわゆる「南京事件」に関する政府の見解は、衆議院議員鈴木貴子君提出いわゆる南京事件や従軍慰安婦を世界記憶遺産とすることを中国が申請した件に関する質問に対する答弁書(平成二十六年六月二十四日内閣衆質一八六第二二二号)二についてにおいて、「昭和十二年の旧日本軍による南京入城後、非戦闘員の殺害又は略奪行為があったことは否定できないと考えているが、その具体的な数については、様々な議論があることもあり、政府として断定することは困難である。」と述べたとおりである。
一の2及び3について
御指摘の「日本のイメージ」、「日本の国際的な評価」及び「我が国の国際的イメージ」の具体的に意味するところが明らかではないため、お尋ねの「どのような影響を及ぼしていると考えているか」、「どのような影響を与える可能性があるか」及び「改善にどのように寄与しているか」についてお答えすることは困難であるが、いずれにせよ、政府としては、国際社会において、客観的事実に基づく正しい歴史認識が形成され、我が国の基本的立場や取組に対して正当な評価を受けるべく、積極的かつ戦略的に対外発信に取り組んできている。
具体的には、歴史認識を始めとした幅広い分野に関する我が国の立場や考え方について、内閣総理大臣や外務大臣を始めとした政府関係者による記者会見、インタビュー、寄稿、外国訪問先及び国際会議でのスピーチ等を通じて発信するとともに、在外公館において各国の政府、国民及び報道機関に対して発信している。また、事実誤認に基づく報道が外国報道機関によって行われた場合には、正確な事実関係と理解に基づく報道がなされるよう、速やかに在外公館や外務本省から当該外国報道機関等に対して客観的な事実に基づく申入れ等を実施している。加えて、動画などの広報用の資料を作成して様々な場面で活用しているほか、外務省のウェブサイトやソーシャルメディアを通じたオンラインでの情報発信にも取り組んでいる。
このような取組の効果については、その対象となった者の反応、世論調査の結果等を踏まえて総合的に検証しているところであり、その検証の結果を踏まえながら、引き続き、このような取組を積極的かつ戦略的に推進していく考えである。
神谷宗幣(参政党)
外務省のホームページに記載されている、日本軍の南京入城後の非戦闘員の殺害や略奪行為についての政府の立場は、どのような資料に基づいているか。二〇二三年四月三日の参議院決算委員会で林外務大臣が言及した戦史叢書「支那事変陸軍作戦」を含む、この見解を支持する具体的な資料や証拠は何か。
また、戦史叢書「支那事変陸軍作戦」に日本軍が一般住民を意図的に殺害したという明確な記述がないとされていることから、外務省ホームページの現在の記載内容には根拠となる資料が欠けており、誤解を与えている可能性があると考える。この点について、政府は外務省ホームページの記載内容に対してどのような評価をしているのか。
政府
御指摘の「誤解」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の「外務省ホームページの記載内容」は、衆議院議員西村真悟君提出歪曲された歴史的事実の是正に関する質問に対する答弁書(平成十九年四月二十四日内閣衆質一六六第一七九号)二についてで述べた見解を記載したものであって、この見解は、御指摘の「戦史叢書」に限らず、それまでに公になっていた文献等から総合的に判断したものであり、御指摘のように「根拠となる資料が欠けて」いるとは考えていない。
我が国が関係する歴史について、異なる理解から議論が生じる例がある。特に、歴史的な事実に関する誤った情報に基づいて歴史認識や主張がなされている。この状況を、「歴史戦」と表現する向きもあるのは周知のとおりである。
このような誤った事実認識を発端として、国際社会において、我が国に対する理解が歪んだものになり、日本のイメージが損なわれるのは望ましい状態ではない。
日本に関する誤った情報や認識が国際社会に広まるのを座視すべきでなく、その是正を図るために先を見越して積極的(プロアクティブ)に行動すべきである。
また、技術の発展により、様々な情報通信手段が生み出されている。従来からの広報手法に加え、これら様々な手段を駆使して総合的かつ戦略的に対外発信を行うことが重要である。
かかる状況と考えを背景として、次のとおり質問する。
神谷宗幣(参政党)
我が国が関係する歴史の認識(以下「本件歴史認識」という。)について、国際社会で様々な情報が広まっている。その中で、誤った事実認識により歪んだ本件歴史認識が流布されているかについて、政府の捉え方や現状評価を明らかにされたい。特に国際社会全般、特定国、国際機関等に関して具体的に回答されたい。
政府
一から三までについて
御指摘の「我が国が関係する歴史の認識」の具体的な範囲が明らかではなく、また、御指摘の「誤った事実認識により歪んだ本件歴史認識が流布されている」、「誤った情報に基づき本件歴史認識が歪められ、日本のイメージが損なわれている」、「正しい本件歴史認識を発信」及び「本件歴史認識を正確な事実を基に取り扱う組織や個人」の具体的に意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難であるが、いずれにせよ、政府としては、国際社会において我が国の立場等が理解されるよう積極的かつ戦略的に対外発信に取り組むこととしており、国際会議等の場や在外公館において我が国の立場等について発信するとともに、外国報道機関により事実誤認に基づく報道が行われた場合には在外公館や外務本省から速やかに申入れや反論の投稿を実施しているほか、外務本省や在外公館のウェブサイト等による情報発信に努めている。
神谷宗幣(参政党)
二 次の各問について、総合的かつ戦略的な観点から具体的に明らかにされたい。
1 誤った情報に基づき本件歴史認識が歪められ、日本のイメージが損なわれている場合に、政府としていかなる対応を行っている、又は対応するための体制をとっているか示されたい。
2 かかる対応策は、問題が生じた際に初めて採る措置に限られているか。個別に問題が発生する前から正しい本件歴史認識を発信し定着させるために施策を実施しているか。また、そのための体制をとっているか示されたい。
政府
一から三までについて
御指摘の「我が国が関係する歴史の認識」の具体的な範囲が明らかではなく、また、御指摘の「誤った事実認識により歪んだ本件歴史認識が流布されている」、「誤った情報に基づき本件歴史認識が歪められ、日本のイメージが損なわれている」、「正しい本件歴史認識を発信」及び「本件歴史認識を正確な事実を基に取り扱う組織や個人」の具体的に意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難であるが、いずれにせよ、政府としては、国際社会において我が国の立場等が理解されるよう積極的かつ戦略的に対外発信に取り組むこととしており、国際会議等の場や在外公館において我が国の立場等について発信するとともに、外国報道機関により事実誤認に基づく報道が行われた場合には在外公館や外務本省から速やかに申入れや反論の投稿を実施しているほか、外務本省や在外公館のウェブサイト等による情報発信に努めている。
神谷宗幣(参政党)
三 組織・個人等との連携・協力に係る次の各問について回答されたい。
1 正しい本件歴史認識を発信するためには、政府のみならず、オピニオンリーダー、学識経験者等を含む非政府組織や個人とも連携することが重要と考えるが、この点について政府の考えを示されたい。また、これまでいかなる官民連携、協力を行っているか、具体的に説明されたい。
2 国内に限らず、国外において、本件歴史認識を正確な事実を基に取り扱う組織や個人が存在する。これら国外の団体、個人との協力について、政府の考えを示されたい。また、どのような協力を行っているのか、その具体例を示されたい。
政府
一から三までについて
御指摘の「我が国が関係する歴史の認識」の具体的な範囲が明らかではなく、また、御指摘の「誤った事実認識により歪んだ本件歴史認識が流布されている」、「誤った情報に基づき本件歴史認識が歪められ、日本のイメージが損なわれている」、「正しい本件歴史認識を発信」及び「本件歴史認識を正確な事実を基に取り扱う組織や個人」の具体的に意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難であるが、いずれにせよ、政府としては、国際社会において我が国の立場等が理解されるよう積極的かつ戦略的に対外発信に取り組むこととしており、国際会議等の場や在外公館において我が国の立場等について発信するとともに、外国報道機関により事実誤認に基づく報道が行われた場合には在外公館や外務本省から速やかに申入れや反論の投稿を実施しているほか、外務本省や在外公館のウェブサイト等による情報発信に努めている。