質問主意書
令和六年一月二日に東京国際空港で発生した、日本航空A350型機と海上保安庁DHC8型機の衝突事故において、五名の海上保安庁職員の方々が尊い命を落とされた。
事故直後から、新聞やテレビ等を通じて、事故原因や当時の状況について断片的な情報が「関係者」という無責任な情報源に基づいて報道される状況が続いている。加えて、その情報をもとにSNS等で関係者を犯人扱いするような発言が繰り返され拡散されている。
このような世論誘導が航空事故の真相解明と再発防止の妨げとなり、再び今回のような惨事を招きかねない事態となっている。
これら断片的な情報による誤った世論誘導の原因は、日本において、航空事故やインシデント等で死傷者が出た場合、刑事告発される可能性がある国だということ、同時に事故調査資料が刑事裁判の証拠として利用される国であるという状況に起因している。
そのため、調査の対象となる者は、自身への刑事責任を免れるため又は軽減するために、事故について知り得る事実の全てを明らかにせず、別のストーリーを立てて聴取に対応したいという心理が働くことが考えられる。刑事上の取り調べには黙秘権は認められるが、事故調査に黙秘権を行使することが前提になるなら事故の再発防止に資する情報を収集し教訓とするという目的を果たす妨げとなる。
すなわち関係者個人の責任を問い、罰することが目的の刑事捜査が優先されたり、そうした方向に沿って事実の断片だけを取り上げるような言説や報道がなされたりするなら、本来、再発防止のみに役立てるべき事故調査が歪められることになる。これは結果として、今後の再発防止につながらない調査としてしまうリスクを生む。
航空機事故の場合は複数の原因が複雑に絡み合って発生することから、「誰か」ではなく「何が」「どのように」原因につながり事故を生み出したかを解き明かすことが新たな悲劇(事故)を引き起こさないためにとても大切である。
ついては、我が国においては、国際民間航空条約(以下「シカゴ条約」という。)に準拠しながら、その規定と全く相反する「刑事捜査が事故調査に優先する」仕組みを時代に合わせて変えなければならない状況である認識が必要である。
これらを踏まえ質問する。
神谷宗幣(参政党)
今回の東京国際空港で発生した事故の原因調査においては、運輸安全委員会の調査を刑事捜査に優先させるシカゴ条約第十三附属書の立場で実施しているのか。報道によれば、既に事故当日から警視庁は海保機長ほか関係者の聴取や滑走路その他の施設に立ち入って捜査を開始し、捜査本部を羽田空港署内に置いたとされるが、これは刑事捜査優先の実態を示しているのではないか。
政府
御指摘の「シカゴ条約第十三附属書」(以下「附属書」という。)においては、御指摘のような「運輸安全委員会の調査を刑事捜査に優先させる」ことは規定されていないものと承知しているが、運輸安全委員会(以下「委員会」という。)においては、捜査機関とは独立した立場で附属書の趣旨に沿って、御指摘の「事故」に係る原因の調査を行っているものと考えている。また、委員会は、当該事故の当日から航空事故調査官を東京国際空港に派遣し調査を開始しており、「刑事捜査優先の実態を示している」との御指摘は当たらないと考えている。
神谷宗幣(参政党)
報道や週刊誌等においては、「警視庁関係者に対する取材による」として、海保機長や、管制官の人為的ミスが要因として、業務上過失致死容疑を視野に捜査をしているといった記事を掲載している。これら事故原因究明に先んじて捜査を行っている捜査官は、具体的にどのような原因特定に必要な専門知識と経験を有しているのか。また、テレビや週刊誌報道で「警視庁関係者」「捜査関係者」から取材、聴き取りをした話として、「海保機の錯誤」とか「管制のミス」などといった話が出ているが、これは運輸安全委員会による調査に先んじて刑事責任の所在を印象づけるような世論誘導につながり、望ましくないと考えるが、政府はこれを問題ないとするのか。
政府
前段のお尋ねについては、捜査員の有する知識及び経験については、これを明らかにすることにより、今後の捜査活動に支障をもたらすおそれがあり、お答えすることは差し控えたい。
後段のお尋ねについては、個別の報道の内容に関するものであり、政府としてお答えすることは差し控えたい。
神谷宗幣(参政党)
平成九年六月八日に発生した日本航空MD11機乱降下事故において、事故調査が優先され、業務上過失致死傷で起訴された機長が、その後平成十九年に無罪判決となった事例も、刑事捜査が優先されていなければ、避けられた事案であった。この経験を受けて事故調査プロセスにおいては、どのような再発防止策がとられることとなっていたのか。あるいは、そのような対策については検討も策定もされていなかったのか、明らかにされたい。
政府
御指摘の「刑事捜査が優先されていなければ、避けられた事案であった」の意味するところが必ずしも明らかではないが、政府としては、御指摘の「事例」を受けて、御指摘の「再発防止策」及び御指摘の「対策」について特段検討を行っていない。
神谷宗幣(参政党)
本来、事故調査においては、組織としての独立性が重要であり、それがあるべき基本であるが、現在日本では、運輸安全委員会が国土交通省の下部組織として位置づけられており、その独立性に疑問がある。たとえば、報道で警視庁捜査が問題にしているかのように伝えられている空港における管制業務は、多くの場合、国土交通省航空局が所管し実施している。調査検証機関が同省傘下では、十分な調査権限の下で公正・中立な立場での調査を実施していく妨げになるのではないか。また、シカゴ条約第十三附属書でも事故調査は独立機関が公正・中立な立場で行うことが望ましいとされているが、我が国の運輸安全委員会はこの国際民間航空のあり方を規定した条約の趣旨に沿うものになっているのか。
政府
お尋ねについては、令和元年六月十二日の衆議院国土交通委員会において、石井国土交通大臣(当時)が「運輸安全委員会は、国家行政組織法第三条に基づくいわゆる三条委員会でございます。府省の大臣などからの指揮や監督を受けず、独立して権限を行使することができる合議制の機関でございます。特に、運輸安全委員会は、国土交通大臣への勧告、意見の発出を行うこともあるため、運輸安全委員会設置法第六条に基づき、委員長及び委員の職権行使の独立性が担保されております。このため、国土交通大臣は、個別の調査案件につきまして、運輸安全委員会に対して特段の指導等を行う立場にはございません」と答弁したとおりであり、委員会においては、独立した立場で附属書の趣旨に沿って事故原因の調査を行っているものと考えている。
岸田文雄首相は歴代首相から引き継いで、「拉致被害問題の解決を最優先課題」とすると表明しているが、この間、二十年以上にわたり大きな進展のないまま推移している。これは、途切れがちな北朝鮮側との折衝など、交渉解決の道がなかなか拓かれない問題とあわせ、日本国内外から連れ去られた被害者をとりまく実情、犯行の実態の解明が進んでいないことも国際社会並びに北朝鮮側に対しても説得力を持って解決を迫れない重要な一因になっていると考えられる。
特に政府認定の拉致被害者に加え、現在、八百七十一人とされる「北朝鮮による拉致の可能性を排除できない行方不明者」、いわゆる特定失踪者の調査、真相解明、はっきりした拉致被害の認定が進まない状況は深刻な事態である。これでは、相手側の犯行で多数の人を連れ去られた側が、いったい誰が明確に連れ去られたのか分からないままに「連れ去った者を返せ」と言っているに等しく、「双方が協力して真相解明」という過去の合意はあるにしても確実に被害者全員を救出することにつながるかどうかは、はなはだ心もとないものと考えざるを得ない。
行方知れずとなった家族、親しい人が生死も不明なまま、ケースによっては半世紀以上も安否の確認と帰還を待ち続けている家族、関係者の心情を思うと、政府はもちろん国民ぐるみで真相解明をはかり、救出を図ることが日々切実さを増していることは明らかである。そのためにも、警察による捜査をはじめ、国民全体への問題の啓発とともに海外でも積極的に拉致被害問題の広報啓発活動を展開し、内外世論を喚起しながら問題解決への協力の輪を広げることが肝要と考える。
以上の点に立ち、以下、質問する。
神谷宗幣(参政党)
一 特定失踪者問題について
1 政府が把握している現在の総数と都道府県別数を示されたい。
2 特定失踪者に関する捜査・調査がいまだほとんど結末を見ず、前述したように相手側の犯行で多数の人を連れ去られた側が、いったい誰が明確に連れ去られたのか分からないままに「連れ去った者を返せ」と言っているに等しい状況について、政府はどう考えるのか。八百七十一名の特定失踪者について、真相を全て解明しなければ「全員救出」は果たせないと考えるが、政府はどう解決を図るのか示されたい。
3 特定失踪者問題は拉致被害問題の中で大きな比重を占めている。よりきめ細かな啓発キャンペーンにより国民の意識を高め、情報がより多く集まる条件を整えていくことが重要と考える。都道府県別の特定失踪者問題啓発など、特定失踪者家族会、特定失踪者問題調査会など関係者と協力、相談して市町村レベルまで啓発及び協力よびかけを推進すべきと考えるが、政府としてどのような方針を持っているのか、示されたい。
政府
一の1について
御指摘の「特定失踪者」とは、民間団体である「特定失踪者問題調査会」が独自に北朝鮮による拉致の可能性を調査の対象としている失踪者のことを意味するものと承知している。政府では、関係府省・関係機関において捜査・調査を進めている事案が、「特定失踪者」の事案に限られないことから、「北朝鮮による拉致の可能性を排除できない者」等の表現を用いている。
警察が捜査・調査をしている北朝鮮による拉致の可能性を排除できない者の数は、令和四年八月五日現在で八百七十一名であり、捜査・調査をしている都道府県警察別にお示しすると、次のとおりである。
北海道警察 八十五名
青森県警察 九名
岩手県警察 十一名
宮城県警察 四名
秋田県警察 四名
山形県警察 八名
福島県警察 十名
警視庁 五十七名
茨城県警察 九名
栃木県警察 六名
群馬県警察 三名
埼玉県警察 二十四名
千葉県警察 三十二名
神奈川県警察 四十三名
新潟県警察 四十四名
山梨県警察 三名
長野県警察 九名
静岡県警察 十八名
富山県警察 二十名
石川県警察 三十名
福井県警察 十名
岐阜県警察 七名
愛知県警察 二十二名
三重県警察 六名
滋賀県警察 五名
京都府警察 十五名
大阪府警察 六十四名
兵庫県警察 三十六名
奈良県警察 六名
和歌山県警察 九名
鳥取県警察 七名
島根県警察 十名
岡山県警察 十一名
広島県警察 十三名
山口県警察 二十一名
香川県警察 七名
愛媛県警察 十五名
徳島県警察 九名
高知県警察 六名
福岡県警察 二十九名
佐賀県警察 七名
長崎県警察 十六名
大分県警察 十二名
熊本県警察 十二名
宮崎県警察 十六名
鹿児島県警察 三十七名
沖縄県警察 三十四名
一の2について
北朝鮮当局によって拉致された被害者等の支援に関する法律(平成十四年法律第百四十三号)第二条第一項第一号の認定がされている拉致被害者(以下「認定拉致被害者」という。)の人数は十七名であるが、政府としては、これ以外にも北朝鮮による拉致の可能性を排除できない者が存在しているとの認識の下、拉致問題の全面解決に向けて、拉致被害者としての認定の有無にかかわらず、全ての拉致被害者の安全確保及び即時帰国のために全力を尽くし、また、拉致に関する真相究明及び拉致実行犯の引渡しを引き続き追求していく考えである。
一の3について
政府としては、認定拉致被害者以外にも北朝鮮による拉致の可能性を排除できない者が存在しているとの認識の下、国民の間に広く拉致問題についての関心と認識を深めるための啓発の取組を推進している。
二 拉致被害者などの生存情報について
1 平成三十年四月十七日付「東京新聞」によれば、政府認定拉致被害者の田中実さんについて、平成二十六年に北朝鮮側が日本政府に対して「北朝鮮に入国していた」、「本人に帰国の意思はない」と伝えていたと報道した。また、共同通信は平成三十年三月十五日付で「日本政府が「拉致の可能性を排除できない」としている神戸市の元ラーメン店員の金田龍光さん」についても、北朝鮮側が「入国していた」と日本側に伝えていたと報道している。これらは、事実なのか。また、その後、この二人についての情報は得ているのか。それぞれ示されたい。
2 令和元年十一月十八日付「東京新聞」で、昭和五十二年に北朝鮮に拉致されたと政府に認定されている松本京子さんについて、「北朝鮮当局内で「手厚い医療を受けさせよ」との指示が出ているとの情報がある」と報じられた。情報元は韓国の拉致被害者でつくる拉北者家族会の代表で平壌の消息筋から入手した情報とされており、これによると松本さんは平成二十八年に視力低下などの症状で朝鮮赤十字総合病院に入院しているとの話も伝えられている。これらの消息情報について、政府はどのように調査しているのか、示されたい。
3 令和二年七月二十九日付「産経新聞」には、北朝鮮でスパイ容疑で拘束され平成三十年の米朝首脳会談前に解放されていた韓国系米国人、ドンチョル・キム氏が仕事に従事していた北朝鮮の羅先経済特区で平成十六年から同二十七年にかけて「七人の日本人に接触」し、他に二十五人前後が存在していると確認した旨述べている。その中には「死ぬ前に親戚に会いたい」と同氏に手紙を託した人もあるといい、これらの日本人が「拉致された人々ではないか」とドンチョル・キム氏は述べているが、政府はこれらについて調査しているのか、示されたい。
政府
個々の報道を前提としたお尋ねについて、政府としてお答えすることは差し控えたい。
神谷宗幣(参政党)
三 拉致被害者問題の海外啓発問題について
現在、在外邦人によって自発的な拉致被害に関する海外啓発を映画「めぐみへの誓い」上映普及で行う運動が展開され始め、NPO法人「拉致問題映画海外上映実行委員会」の設立手続きが着手されている。この取組については、岸田文雄首相は先に日本維新の会共同代表の馬場伸幸衆議院議員の質問に答えて「外務省に支援を指示」と答弁している。既にロサンゼルスなどで上映会が実施されて現地で好評を博し、今秋にはポートランド、ハリウッド、ミュンヘンでの上映が具体化されているが、これらについて外務省及び拉致被害対策本部はいっそう支援を行うべきであり、以下の点について改善が図られるべきと考えるので、それぞれについて見解を示されたい。
1 イベントごとに外務省後援を得るために一カ月半以上の手続き期間が求められているが、これではイベント告知の段階で外務省後援を明記することができない。より早い承諾あるいは、年間イベント計画全体に対して外務省後援をあらかじめ承認することはできないのか。
2 外務省後援では財政的な支援などは行われていないのに、事後の詳細な収支報告を含む報告書提出が求められている。公的な後援であることによる事業の正当性の確認が必要なことは理解するものの、細かな収支までチェックするならば、広報費用(新聞などへの告知宣伝掲載費など)については「半額補助」などの支援策を考えられないか。会場費についても、ある程度の費用の支援を考えられないか。日本政府の在外関係施設使用の場合は、施設利用費の全額を支援できないか。
政府
三の1について
外務省後援名義の使用の許可については、外務省における基準に基づき、事業ごとにこれを行っており、審査に要する一定の期間を想定して、受付期間を設けているところである。
三の2について
外務省後援名義は、外務省設置法(平成十一年法律第九十四号)第四条第一項第十五号に定める海外事情についての国内広報その他啓発のための措置及び日本事情についての海外広報その他啓発のための措置として、外務省以外の団体が開催する講演会、展示会、博覧会、競技会、普及啓発活動及びその他事業に対して使用を許可するものであり、また、外務省後援名義等の使用許可申請に当たって事業の収支予算書及び事後の事業報告書の提出を求めているのは、申請者の事業運営能力及び事業の非営利性を確認するためであって、お尋ねの「半額補助」や「費用の支援」等は困難である。