質問主意書
戦時下の朝鮮半島出身労働者をめぐる問題(以下「本件問題」という。)については、これまでに累次の質問主意書を提出し、答弁の送付を受けた。その中で、日韓両国間の連携を発展・強化すること、及び韓国の理不尽な行為に対しては一寸の譲歩なく筋を通すのが最良の策であることを示した。もとより本件問題は、すでに日韓請求権・経済協力協定において両国間で解決済みである。
それにも関わらず、本件問題に関し、韓国最高裁は、日本企業四社に対する原告の訴えを相次いで認める判決を下し、令和六年二月には、日立造船が韓国での資産の強制執行を防ぐために供託していた約六百七十万円全額が原告側へ支払われた(以下「本件支払い」という。)。原告側はこれを「日本企業による事実上の賠償」ととらえているが、本件支払いは、国際法令上賠償責任のない日本企業への資産の不当な侵害であり、決して許容されるべきではない。
これに対して日本政府は、林芳正官房長官が「日韓請求権協定に明らかに反する判決に基づき、日本企業に不当な不利益を負わせるもので極めて遺憾だ」と述べ、外務省は在京韓国大使を呼んで抗議したという。
昨年、韓国政府は、韓国の財団が日本企業に代わって賠償金を支払う解決策を発表した(以下「本件韓国発表」という。)。本件韓国発表に基づき、韓国側は日立造船に対する財産権侵害を是正する措置を講じるべきである。一部報道では、「日本政府関係者によると、解決策の枠組みに影響しない例外的な事例」としているとも報じられているが、日本政府としても、二国間関係は公正に評価し、本件支払いに対して厳格かつ適切な対応を講じるべきではないか。
以上を踏まえて、以下質問する。
神谷宗幣(参政党)
林官房長官によると、日本政府は韓国側に適切な対応を求めているとのことであるが、具体的にどのような措置を韓国政府に求めたのか。
政府
お尋ねについては、旧朝鮮半島出身労働者問題に関して大韓民国政府とは平素から様々なやり取りを行っており、令和五年三月六日に同国政府が発表した措置を踏まえた適切な対応がなされるよう同国政府に求めているところであるが、その詳細については、相手国との関係もあり、お答えすることは差し控えたい。
神谷宗幣(参政党)
平成三十一年三月十二日の衆議院財務金融委員会において、当時の麻生太郎財務相は、本件問題に関する日本企業の資産差し押さえ問題への対抗策として、韓国からの輸入品に対する関税引き上げの考えを問われたのに対し、「関税に限らず、送金停止やビザの発給停止などいろいろな報復措置がある」旨答弁した。また、令和二年八月四日の閣議後の会見では、韓国の司法手続きによって差し押さえられた日本企業の資産が実際に売却された場合の措置について言及し、「しかるべく対応を取らざるをえない」旨述べた。
上記答弁を前提として、政府は、今後具体的にどのような対抗措置を講じる予定か。
政府
お尋ねの「上記答弁を前提として」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、一についてで述べたとおり、大韓民国政府が発表した措置を踏まえた適切な対応がなされるよう同国政府に求めているところであり、現時点において、今後の対応について予断をもってお答えすることは差し控えたい。
神谷宗幣(参政党)
政府は、昨年七月、簡略な輸出手続きを認める優遇対象国「グループA」に韓国を再指定し、同年十二月には日韓通貨スワップ協定を締結したが、昨今の情勢を踏まえ、再検討をする考えはあるか。
政府
御指摘の「優遇対象国「グループA」」とは、輸出貿易管理令(昭和二十四年政令第三百七十八号)別表第三に掲げる国を指すものと考えられるが、お尋ねについては、現時点において、見直す予定はない。
令和五年三月十五日提出「戦時下の朝鮮半島出身労働者をめぐる問題に関する再質問主意書」(第二百十一回国会質問第三九号)(以下「本件再質問主意書」という。)に対して、令和五年三月二十八日付答弁書(内閣参質二一一第三九号)(以下「本件答弁書」という。)が送付された。
韓国の財団が被告の日本企業に代わって賠償金を支払うとの韓国政府発表(以下「韓国の今次発表」という。)により、旧朝鮮半島出身の労働者(以下「応募工」という。)をめぐる韓国側の一方的な行為による不適切な状況が正常化に向かったことは評価に値する。
現在の国際情勢、とりわけ、我が国周辺の安全保障環境は一層厳しさを増している。かかる緊迫した国際情勢にあって、我が国と隣国である韓国との連携はますます重要となっている。さらに、両国の枠を越えて、安全保障分野における日米韓の連携強化がますます重要になっている。
その一方で、我が国に対する他国による理不尽な行為に対しては、我が国は一歩も引かない姿勢が肝要である。韓国との関係では、韓国の今次発表により、先の韓国大法院の判決に由来する本件応募工をめぐる状況に進展が見られたが、依然として日韓両国間には懸念と課題が残っている。
両国間の懸案と課題のほんの一部を例示すれば、竹島の不法占拠、応募工に関わる求償権の取扱い、韓国海軍駆逐艦による海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射事件、旭日旗(自衛隊旗)に対する非礼などが挙げられる。これらは、いずれも韓国側の一方的な行為から発生しているものである。
これらの懸念や課題に関して、我が国としては、ただすべきはただす姿勢が重要である。逆に、両国関係の進展のためとして、日本側が「譲歩」と見られかねない態度を取ることは、長い目で見て日韓関係の発展のためにはならない。ここでいう「譲歩」とは、例えば、韓国側の理不尽な行為をただすことなく放置すること、あるいは、韓国側が不適切な状況をただすに際して我が国が他の分野で「見返り」的な措置をとること等である。我が国が「譲歩」することは、かえって韓国側が繰り返し根拠のない要求を繰り返す、または、理不尽な行為を行う要因となる。
これまで、韓国国内の情勢の変化により、特に韓国政権の支持率が低下した際に、当該政権が反日傾向を強める事例を経験してきた。また、韓国政権の交代により、前政府の方針が転換される事例もあった。ちなみに、韓国の今次発表の後、日韓で政権支持率の変動に差があった。日本では政権支持率が上昇したが、韓国では同支持率が下落したと承知している。
以上を踏まえれば、日韓両国間の連携を発展・強化すると同時に、韓国側の理不尽な行為には一寸の譲歩なく筋を通すのが最良の策である。連携と諸課題(特に歴史をめぐる案件)は別次元として扱うべきである。この観点からは、本件答弁書のとおり、韓国向けの安全保障に係る輸出管理の運用見直しと旧朝鮮半島出身労働者問題は別の議論であるとの考えと方針を評価したい。
なお、日韓の対立を殊更に煽る向きもあり、両国間の諸懸案が両国の分断のために利用されるとの分析も耳にする。この観点からは、いたずらに両国の対立を煽る態度や印象を強めることは得策ではない。韓国内も一枚岩でなく、事実を直視して我が国と建設的な関係強化を志向する組織や個人がいる一方、事実の誤認や時には歪曲もあり反日的な姿勢をとる組織や個人がいると理解する。我が国としては、前者とは一層連携を強め、後者には筋の通った対応をとるべきである。
したがって、我が国の対応として、(1)安全保障分野での両国の連携など積極面を重点的に推進しつつ、右連携に関する情報発信を行う、(2)歴史認識を含む諸懸案については筋を通しつつ、真実と日本の主張を韓国及び国際社会に対して発信する、といった積極的な広報政策も重要である。
以上の視点を踏まえて質問する。
神谷宗幣(参政党)
一 安全保障分野の連携
1 政府は、現下の我が国を取り巻く厳しい安全保障環境に鑑み、特に、中国、北朝鮮、ロシアへの対応に当たり、安全保障分野で韓国といかに連携する方針か。
2 前記1と同様の観点から、日米韓の連携につき政府の方針を示されたい。
政府
北朝鮮への対応等を念頭に、安全保障面を含め、日韓及び日米韓の戦略的連携を強化していく。
神谷宗幣(参政党)
二 韓国側の一方的行為への対応
1 応募工をめぐる「求償権」に関して韓国の国内法の事項として放置するのは、前記のとおり韓国側の方針が覆された過去の例に鑑みて、我が国の対応として不足ではないか。求償権が行使されないこと、すなわち、本件が蒸し返されないことをいかに担保するか、政府の方針を示されたい。
なお、本件答弁書の「二について」において、本件再質問主意書のいう「求償権」に係る記述の意味するところが必ずしも明らかではないとの答弁であったが、その意味するところは、韓国企業が日本企業に「代わって」支払うということであれば、韓国企業から本来支払う者として日本企業に当該支払い分の求償権を行使するとの趣旨であり、これを踏まえ、政府の方針を明確に示されたい。
2 本件答弁書の「三の2について」において、本件再質問主意書にある「この時期に殊更表明した」の意味するところが必ずしも明らかではないとの答弁であったが、その意味するところは、韓国の今次発表の時期に合わせて、日本政府が過去の方針(我が国の反省や謝罪を含む。)を明示的に確認するのは、旧朝鮮半島出身の労働者が強制労働であったので日本政府が改めて謝罪を確認したという間違ったイメージを惹起するのではないかとの趣旨であり、これを踏まえ、本件再質問主意書三の2につき改めて答弁されたい。その際、本件答弁書のいう「これまでも述べてきているとおり」の政府の立場の内容を具体的に記述されたい。
3 前記に挙げた韓国側の一方的行為により生じている各懸案と課題(竹島の不法占拠、韓国海軍駆逐艦による海上自衛隊哨戒機へのレーダー照射事件、旭日旗(自衛隊旗)に対する非礼など)に関して、ただすべきはただす観点から、今後政府はいかなる対応を行うかにつき見通しと方針を示されたい。
政府
二の1について
お尋ねについては、韓国の国内法上の位置付けに関する事項であり、政府としてお答えする立場にないが、いずれにせよ、御指摘の韓国大法院判決についての政府の立場は、これまでも述べてきているとおりである。
二の2について
御指摘の「過去の方針」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、御指摘の「政府の立場」は、本年三月六日の林外務大臣の記者会見の機会を含め、これまでも述べてきていることから、「この時期に殊更表明した」との御指摘は当たらないと考えている。
二の3について
日韓間の諸課題については、その見通しについて予断することは差し控えたいが、我が国の立場に基づき適切に対応していく。
神谷宗幣(参政党)
三 積極的な広報政策
1 「徴用工」の用語拡散への対応
本件答弁書の「一の2について」において、「間違ったイメージ」の具体的に意味するところが明らかではないとの答弁であったが、その意味するところは、旧朝鮮半島出身労働者には徴用、募集によるものが含まれ(本件答弁書)、先の韓国大法院の裁判は、そのうち応募工に関する判決であったと理解しており、報道等において、専ら徴用工の用語を用いるのは事実関係を正確に反映しておらず、あたかも日本政府が朝鮮半島労働者を徴用して強制労働を強いたかのような間違ったイメージを惹起するのではないかとの趣旨であり、これを踏まえ、本件再質問主意書一の2に関して改めて答弁されたい。
2 日韓の建設的な連携関係を強化するためにも、両国間の課題や懸案に係る発信のみならず、両国の前向きな関係の進展についても今以上に積極的に広報すべきとの意見に関して、政府の見解と方針を示されたい。
政府
三の1について
韓国大法院における御指摘の裁判の原告が朝鮮半島から内地に移入した経緯について政府として述べる立場になく、それを前提としたお尋ねについてお答えすることは困難である。
三の2について
御指摘の「両国の前向きな関係の進展」の意味するところが必ずしも明らかではないが、日韓両政府は、両国が共に裨(ひ)益するような協力を進めるべく、政治、経済、文化等多岐にわたる分野で政府間の意思疎通を活性化させていくこととしており、このことは外務省ウェブサイトにも記載している。
令和五年二月十四日提出「戦時下の朝鮮半島出身労働者をめぐる問題に関する質問主意書」(第二百十一回国会質問第一八号)に対して、令和五年二月二十四日付答弁書(内閣参質二一一第一八号)(以下「答弁書」という。)が送付されたところである。
その後、韓国政府は、韓国の財団が被告の日本企業に代わって賠償金を支払うと発表(以下「韓国の今次発表」という。)した。韓国の今次発表は、これまでの韓国大法院の国際法令に反した判決により生じた状況を是正する方向にあることは歓迎する。
しかしながら、もとより「戦時下の朝鮮半島出身労働者をめぐる問題」(以下「本問題」という。)は完全かつ最終的に解決済であり、先の韓国大法院の判決(以下「本件判決」という。)は国際法令に反しており、日本企業による賠償責任は生じない。したがって、存在しない賠償金を代わって支払うとの表現は誤りであり不適当である。肩代わりであることを認めれば、日本企業に対する求償権を認めることにつながりかねない。
また、本件判決で扱われているのは、募集に応じた「応募工」であると理解する。しかしながら、内外の報道、特に韓国側により、「戦時下の朝鮮半島労働者」を意味する呼称として専ら「徴用工」が用いられる傾向が顕著である。「徴用工」を用いることは、本件判決について言及するのに不適切であるのみならず、強制労働との誤ったイメージを広げうる概念である。実際に、国際報道(BBC等)でも本問題に関して「Forced Labor」(強制労働)の用語が用いられている例がある。
韓国の今次発表を受け、岸田首相は、植民地支配へのおわびや反省を盛り込んだ一九九八年の日韓共同宣言など、過去の日本政府の立場に変わりはないと表明した。経団連は、韓国留学生のために基金を設立する意向であるとされる。本問題が生じたのは韓国側の一方的な行為によるものであり、是正される方向に向かったことは歓迎するとしても、日本側から何らかの「見返り」に相当する措置を採る性質のものではない。
なお、いわゆる慰安婦問題のように、日韓政府間で合意したこと、韓国政府が約束したこと等に関して、いったん行った決定を韓国側が尊重しなかった例がある。今後、日本政府としては、かかる事態が再び生じないように必要な措置を採ることは重要である。
答弁書の内容及びかかる認識等を踏まえ、本問題に関して、次のとおり質問する。
神谷宗幣(参政党)
一 「戦時下の朝鮮半島出身労働者」について
1 答弁書によれば、朝鮮半島から内地に移入した人々の移入の経緯は様々であるとのことであるが、「戦時下の朝鮮半島出身労働者」には、徴用による移入(いわゆる「徴用工」)、募集に応募したことによる移入(いわゆる「応募工」)が含まれることを確認されたい。
2 本問題に関連して「徴用工」の用語が用いられることにより、「戦時下の朝鮮半島労働者」に関して間違ったイメージが広がり、あたかも当時の日本政府が朝鮮半島出身者に強制労働を課したかのような認識が国際社会に広まることは問題である。政府は、前記のとおり日本に関する間違ったイメージが広がることにいかなる認識を持っているか、また、いかなる対応策を取っているか。
政府
一の1について
朝鮮半島から内地に移入した人々の移入の経緯は様々であり、「徴用」及び「募集」によるものを含め、朝鮮半島から内地に移入した労働者を、政府として「旧朝鮮半島出身労働者」と呼称している。
一の2について
御指摘の「間違ったイメージ」の具体的に意味するところが明らかではなく、お答えすることは困難である。
神谷宗幣(参政党)
二 賠償責任・求償権について
1 韓国政府は、韓国の財団が被告の日本企業に代わって賠償金を支払うとしている。このため、支払者により日本企業に対する求償権を行使する余地に関して政府の見解を示されたい。
2 そもそも賠償責任が生じないのであり、求償権も発生する余地がない点を、韓国政府との間で、あるいは、日本政府から、法的に明確にすべきではないか。
政府
二について
御指摘の「支払者により日本企業に対する求償権を行使する余地」、「そもそも賠償責任が生じない」及び「求償権も発生する余地がない」の意味するところが必ずしも明らかではないが、本年三月六日に韓国政府が発表した旧朝鮮半島出身労働者問題に関する措置に係る同国の国内法上の位置付けについては、政府としてお答えする立場になく、いずれにせよ、御指摘の韓国大法院判決についての政府の立場は、これまでも述べてきているとおりである。
神谷宗幣(参政党)
三 韓国の今次発表に係る日本政府の対応について
1 韓国の今次発表に呼応して、日本政府が何らかの措置を採る考えがあるか。その中で、「見返り」に相当する措置を採る考えがあるかを示されたい。
2 植民地支配へのおわびや反省を盛り込んだ一九九八年の日韓共同宣言など過去の日本政府の立場に変わりはないと、この時期に殊更表明したことは、新しい内容の表明ではないとしても、日本は悪いことをした、徴用により強制労働を強いたなどの誤解を一層広めることにならないか。
政府
三の1について
本年三月六日の韓国政府による旧朝鮮半島出身労働者問題に関する措置の発表に対する政府の立場は、同日の記者会見で林外務大臣が述べたとおりである。
三の2について
御指摘の「この時期に殊更表明した」の意味するところが必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、御指摘の点に関する政府の立場はこれまでも述べてきているとおりである。
神谷宗幣(参政党)
四 韓国向け輸出管理の運用の見直しについて
1 答弁書の「三について」では、「韓国向け輸出管理の運用の見直し」(韓国を輸出手続が簡略になる優遇国「グループA」から除外)との文言があるが、これは本問題とは無関係な決定であるとの意味か。
2 韓国の今次発表に呼応する措置として、韓国を再び「グループA」に含めることを検討しているのか。
3 韓国側の貿易管理体制が不十分であるとの問題があって韓国を「グループA」から外したのか。
4 その後、韓国は貿易管理体制につき何らかの対応をしたのか。韓国を「グループA」に戻す条件が満たされるような進展があるのか。
政府
四の1及び2について
韓国向けの安全保障に係る輸出管理(以下単に「輸出管理」という。)の運用の見直しは、輸出管理を適切に執行するために行ったものであり、旧朝鮮半島出身労働者問題とは別の議論である。
四の3について
令和元年七月一日に公表した韓国向けの輸出管理の運用の見直しは、同国の輸出管理の制度に当時不十分な点があったこと等を踏まえ、輸出管理を適切に執行するために行ったものである。
四の4について
韓国は、輸出管理当局の体制の拡充や関係法令の整備など、輸出管理の執行の強化に向けた取組を行っているものと承知している。お尋ねの「韓国を「グループA」に戻す条件が満たされるような進展」の意味するところが必ずしも明らかではないが、今後、政策対話を通じて、同国の輸出管理の実効性を確認していく。
政府は戦時下における朝鮮半島出身労働者をめぐる問題(以下「本件問題」という。)に関し、韓国大法院判決で日本企業がすべきとされた賠償を韓国の財団に肩代わりさせる解決案を韓国政府が正式決定すれば、過去の政府談話を継承する立場を改めて説明して「痛切な反省」と「おわびの気持ち」を示す方向で検討に入ったという趣旨の報道がされている(令和五年一月二十八日付け共同通信社など)。また、これに伴い、輸出に当たって優遇措置を適用する対象国に韓国を再指定すること、いわゆる「ホワイト国」に復帰することの検討がされていることも報道されている。
これは、平成三十年十月三十日の韓国大法院判決で「戦時中に新日鐵による工員募集に応募して雇用されたが、賃金が未払いであるので賠償されるべきだ」と主張する原告ら四人の日本企業に対する損害賠償請求が認容されたことから日本企業の財産が差し押さえられ、原告らが日本側に謝罪を求めていることに起因する。
しかし、戦後の問題については、日韓請求権・経済協力協定により、財産・請求権問題が解決されたことを確認するとともに、五億ドルの経済協力(無償三億ドル、有償二億ドル)を実施しており、法的に解決済みである。政府もこのことについて一貫した立場をとっている(平成三十年十一月二十日内閣衆質一九七第四九号)。
こうした戦争に関わる賠償問題について国家間で合意が成立した場合、個人が受けた損害については損害を受けた人が国籍を有する国の政府が行うことが、二十世紀に入ってから、特に第一次世界大戦終結以後は国際的な慣行、後にはジュネーブ条約で裏打ちされた国際法上のルールとなっている。近年解決した我が国のシベリア抑留者に対する補償もこの精神に則って、最高裁判決が国による補償を否定した後にもかかわらず、議員立法によって事実上、抑留期間に応じた賃金支払いに準ずる形で政府からの補償が行われた。
そもそも韓国大法院の先の判決は、日本のみならず世界において戦争被害、損害に関わる補償に関して実施されている国際ルールに則ったやり方を無視したものである。まして、判決後に日本企業の資産を差し押さえた状態にあることは由々しき事態と言わなくてはならない。
この度、大法院判決時の政権は大統領選挙で覆ったことにより、戦時中の未払い賃金に関する補償を日本企業から取立てた資産によらず、韓国側の寄付による財団基金によって行う案が出たのは、前記の国際ルールに照らせば当然の方向であり、正常な在り方へ一歩進んだものと評価できる。しかし、こうした日韓関係を超えて広く各国で実施されている戦争被害補償の在り方について、これの実施と引き換え条件のように日本政府が「痛切な反省」と「おわびの気持ち」を示すというのは、全く筋の通らない無意味かつ必要のない譲歩である。
そもそも、原告らは、当時の国家総動員法下の国民徴用令において「募集」に応じたのであり、「徴用」されたわけではない(平成三十年十一月一日衆議院予算委員会安倍内閣総理大臣答弁)。そして、先の韓国大法院の判決そのものにも原告らが「徴用工」であるとされていないにもかかわらず、「ハンギョレ新聞」のような韓国リベラル・メディアが「徴用工補償で判決」のように決めつけ、これが日本のメディアにも伝播していつの間にか日韓両政府のやりとりに関しても「元徴用工」という言葉で説明されるようになった。
これは、殊更この問題に関して、「募集」と「徴用」を区別せずに「強制労役に動員された」としてきた韓国側のプロパガンダに乗せられたものである。実際の記録がある歴史の姿を歪めることで、かえって補償で救われるべき被害の解決を先送りしてきた要因の一つと考える。
さらに、この問題に絡めて日本から輸出される戦略的重要資材(大量破壊兵器製造に活用できる資源や資材など)の輸出管理については、韓国において物資が行き先不明となり第三国への転売の可能性が指摘されたことが「ホワイト国除外」の原因となっている。したがって、これを「戦時中の未払い賃金補償」の扱いに関する条件のように扱うことは、全く本筋を外した在り方で、理解できない。
歴史の事実の歪曲を前提に物事を交渉し「政治的妥結」を図っても、結局新たな事実が明らかになる度に合意が崩れるというのが、日韓基本条約締結以降の日韓関係を俯瞰しての教訓である。輸出管理も生じた問題の正しい解決を展望して、扱いの基準が決められなくてはならない。
以上の認識に立って、質問する。
神谷宗幣(参政党)
本件問題について、報道をはじめ各所で「徴用工問題」などの表記を用いることが多い。この点、政府は、過去に「旧民間人徴用工」としていた呼称を「旧朝鮮半島出身労働者」に改めているようだが、こうしたことの意味と今後も同様の呼称を用いていくのかどうかを示されたい。
政府
朝鮮半島から内地に移入した人々の移入の経緯は様々であり、朝鮮半島から内地に移入した労働者を、政府として「旧朝鮮半島出身労働者」と呼称している。
神谷宗幣(参政党)
令和五年二月五日放送のテレビ番組で、外務省出身の与党国会議員が、本件問題について「解決自体は日本の国益だ」と述べるとともに、「解決できるのは保守政権の尹政権だけだから、尹政権が倒れないように配慮すべき」との発言をしている。しかし、そのような忖度で相手が望むままに「痛切な反省」と「おわびの気持ち」を表明し、過去同様に歴史の事実について妥協するような態度、なかんずく我が国が朝鮮半島住民・出身者の「強制連行」と「強制労働」を認めたことを示すような姿勢をとることは、引き続き問題の根本的解決を妨げるものであると考える。岸田文雄総理大臣のこの点での認識を示されたい。
政府
二及び四について
御指摘の「そのような忖度」及び「戦争被害の救済に関わる国際ルールを崩すことになる」の意味するところが明らかではなく、お答えすることは困難であるが、いずれにせよ、旧朝鮮半島出身労働者問題については、我が国の一貫した立場に基づいて適切に対応していく。
神谷宗幣(参政党)
本件問題と、いわゆる「ホワイト国」の問題は全く関係がないことは明らかである。しかし、報道では、本件問題解決の見返りとして、韓国のホワイト国復帰を認める方向で政府が検討しているかのような論調が見受けられる。韓国をホワイト国から除外した理由は、核兵器製造に転用できる戦略物資が行方不明であることに韓国政府から説明がなかったことであり、歴史問題とは無関係である。しかし、今回本件問題に絡めて韓国のホワイト国復帰を認めれば、最初から「歴史的問題を提起した韓国への報復目的であった」との韓国側の主張を認めたとの印象を世界に与えかねない。本件問題と「ホワイト国」の問題は完全に切り離して考えるべきだが、岸田文雄総理大臣の認識を示されたい。
政府
三について
御指摘の「「ホワイト国」の問題」の意味するところが必ずしも明らかではないが、韓国向け輸出管理の運用の見直しは、輸出管理を適切に執行するために行ったものである。
神谷宗幣(参政党)
本件問題は、すでに日韓請求権・経済協力協定において両国間で解決済みである。そうであるとすれば、本件問題については、国際法に則った解決を図るべきである。後に韓国国内でこれに反する判決がされ、これを国内的に対処するからといって、日本側がこれに対する見返りとして、日本側が「痛切な反省」と「おわびの気持ち」を表明し、ホワイト国への復帰を許すことは、我が国の国益を損なうとともに、戦争被害の救済に関わる国際ルールを崩すことになると考えるが、岸田文雄総理大臣の認識を示されたい。
政府
二及び四について
御指摘の「そのような忖度」及び「戦争被害の救済に関わる国際ルールを崩すことになる」の意味するところが明らかではなく、お答えすることは困難であるが、いずれにせよ、旧朝鮮半島出身労働者問題については、我が国の一貫した立場に基づいて適切に対応していく。